大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(う)740号 判決

被告人 今井重夫

〔抄 録〕

所論は、要するに、本件各背任行為は包括一罪と認められるべきであるのに、原判決がこれを併合罪としたのは法令の解釈を誤ったものであり、かつ、原判決は資金交付の時毎に新たな犯意を生じさせているとの認定のもとに重きに過ぎる量刑を行っており、右誤りが判決に影響を及ぼしている旨主張する。

そこで、検討すると、被告人は、第一のとおり本件貸付時にはグローバル航空が経済的破綻に瀕しており、同社に貸付しても回収の見込みがないことを熟知しながら本件貸付をしたことが明らかである。

しかるところ、原判決は、右のような事実を認定した上、本件のような形態の背任罪の成否については、その時々の相手方の資力、財産状態及びそれについての犯人の認識が重要であり、通常、犯人は、資金交付の時毎に新たな犯意を生じさせていると解するのが相当である、として、本件各貸付毎に背任罪が成立するとして、これらを併合罪処理している。

しかして、貸付の決意は原判示指摘の点を踏まえその都度なされるにしても、原判示認定のような被告人のグローバル航空の経済的破綻状態に対する認識、任務違背の内容の同一性、貸付の態様、これまでの本庄ガスに対する返済の形態等に鑑みれば、被告人は、本件貸付時右のような認識を有しながらも、なお、グローバル航空を倒産させたくないとの思いから本件の一連の貸付をしていたことが明らかであるから、本件各貸付は包括して一罪をなすものと解するのが相当である。本件各貸付を併合罪とした原判決は法令の適用を誤るものといわざるをえない。

しかしながら、本件が包括して一罪であるとはいえ、右のとおり貸付の決意はその都度なされているのであり、犯罪事実の実態と構成要件評価には変わりがなく、併合罪か包括して一罪かはその評価の個数の違いに過ぎないこと、併合罪として処理した結果、処断刑の上限を誤ったことになるが、原判決の量刑は、包括して一罪の処断刑の範囲内にあり、かつ、右に指摘の本件犯行の実態からみて、併合罪であるとされたが故に殊更重く量刑された事情はなく、異なった刑が言い渡された蓋然性が窺われないことなどからみて、右誤りが判決に影響することが明らかであるとはいえない。結局、論旨は理由がない。

(荒木友雄 田中亮一 林正彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!